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H30年度 第5回 固体物理セミナーを開催します

2018年7月9日

固体物理セミナー
(平成30年度 第5回)
(インタラクティブ物質科学カデットプログラム講演会)
日時:7月25日(水)13:00-14:30
場所:基礎工学研究科 D404-408
講師:出口 和彦 講師
(名古屋大学大学院理学研究科)
題目: 「磁性と超伝導から見た準結晶・近似結晶の電子状態」

要旨:準結晶は、周期的ではない特殊な規則(準周期性)に従って原子が並んだ固体である。結晶と似た回折像が現れるが、その回転対称性は結晶では許されないものである。発見当初は第3の固体と呼ばれた準結晶も現在では広義の結晶と定義されている。結晶では様々な電子状態が解明されている。例えば、希土類元素・アクチナイド元素を含む結晶では、物質を様々な方法で f 電子の状態を制御することにより、長距離磁気秩序の近傍に量子臨界点を作り出し、重い電子液体や異方的超伝導など強相関電子物性に関係した多様な秩序状態を作り出すことができる。一方、準結晶についてみると、その特殊な原子配置の構造についての研究は大きく進展したが、準周期性に特有な電子状態に起因する物性(周期的長距離秩序や超伝導、電子間の斥力が重要になる強相関電子物性などに関するもの)は未解明の部分が多いと考えられている。
希土類元素を含むTsai型クラスターを持つ準結晶・近似結晶について量子臨界現象・磁性・超伝導の研究を行ってきた。Au-Al-Yb系の準結晶・近似結晶はYb3+(f 電子の全角運動量J = 7/2、有効磁気モーメントeff = 4.54B)とYb2+(J= 0、eff = 0)の中間価数のYbをもち、光電子分光の実験から価数揺動状態になっていることが示唆されている。特にAu-Al-Yb準結晶では、常圧・ゼロ磁場で磁化率、比熱のC/T、さらに核スピン格子緩和時間の(T1T)-1がT → 0 Kで発散する量子臨界現象が観測され、Ybの磁性・価数揺らぎに関係した非従来型の量子臨界現象および、それに起因する非フェルミ液体的挙動を示す[1]。一方、近似結晶では発散は示さず、近藤温度が数K程度の重い電子系のように見える。量子臨界現象の圧力依存性についての準結晶と近似結晶の対照実験から、準結晶の量子臨界現象は静水圧の印加に鈍感で測定圧力範囲内で量子臨界状態に留まる「硬さ」を示すのに対し、近似結晶は結晶における量子臨界点近傍の物質と同様に圧力に「敏感」な性質を示し、ある一定の圧力下のみで量子臨界現象が現れる[1,2]。この結果より、Au-Al-Yb準結晶の非従来型の量子臨界現象は準結晶特有の電子状態を反映している可能性が考えられている。
最近では、Ybの価数の状態が異なるTsai型クラスターを持つ近似結晶[3]や希土類がCeの近似結晶[4]についても価数・磁性に着目した研究を進めることにより準結晶・近似結晶における強相関電子系の磁性・量子臨界現象の実験が進展している。また、同様のクラスター構造をもつ物質探索を行いことにより2種類のAu-Ge-Yb近似結晶において超伝導が見つかった[5]。準結晶の超伝導については、Bergman型クラスターを持つAl-Zn-Mg準結晶において準結晶中の電子にも引力が働くことによりバルクの超伝導が発現することが明らかになった[6]。クーパー対の状態については明らかになっていないが、理論研究によれば、準結晶の超伝導は従来の超伝導とは異なるタイプの電子対を持っている可能性が期待されている[7]。
[1] K. Deguchi et al., Nature Materials 11, 1013 (2012).[2] S. Matsukawa
et al., J. Phys. Soc. Jpn. 85, 063706 (2016).[3] M. Hayashi et al., J.
Phys. Soc. Jpn. 86, 043702 (2017).[4] K. Imura et al., J. Phys. Soc. Jpn.
86, 093702 (2017).[5] K. Deguchi et al., J. Phys. Soc. Jpn. 84, 023705
(2015).[6] K. Kamiya et al., Nature Communications 9, 154 (2018).[7] S.
Sakai et al., Phys. Rev. B 95, 024509 (2017).
問合先:井澤公一(基礎工)

*       固体物理セミナーは、物性・未来(物性系)M2必修科目「ゼミナール
Ⅲ」に該当します。

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