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第1回外部評価報告

平成26年1月12日
大阪大学インタラクティブ物質科学・カデットプログラム
第1回外部評価委員会・講評概要

1. プログラムの進捗状況

◆昨年度の後半からスタートしたプロジェクトであり、実際に学生が参加することになって8カ月半ほどしか経ってないが、もろもろのこれまでにない仕組みの設計、内容の準備、実行、行事のレポート作成、などよく整備されて実行に移されている。物性物理100問集、物質化学100問集の編集も、教員の間の協力によって出来上がったものであり、その労を多としたい。研究室ローテーション、学生が主催するセミナー合宿、物質科学英語、など学生は貴重な経験をしたようである。

◆従来の理工系大学院のカリキュラムにはなかった、リベラルアーツ科目、キャリアアップ科目がまだ実行に移されていなかったので、来年度の報告に期待する。

◆キーワードになっている「インタラクティブ」は、種々の側面(学生同士、教員同志、学生と教員、学生と企業人など)、種々のステップ(研究室ローテーション、学生が主催するセミナー合宿、国内研修、海外研修など)で計画され実行に移されている。

2. 意見

◆継続性と普遍化

平成24年度の準備期間を除くと、本格的な活動の期間は6年であり、フルに1年生から5年生までが同時に在籍する期間はわずかに2年間である。修士・博士課程の一貫教育を行うには、この期間がもっと長いことが必要である。本プログラムの骨格となっている、専門性は高く保ちつつ広い視野を持ち柔軟な思考を持つ学生の教育という基本的な方針が、継続的に、かつ発展的に大阪大学で保持されることを期待する。また、その実現のために、大学の予算の確保(覚悟)と、文科省への継続のための予算申請の地道な努力がされることを希望する。

◆広報によるプログラム外への波及

上記と関連するが、本プログラムの活動が広く広報されれば、本プログラムに参加していない学生・教員にも本プログラムが好ましい刺激を与えることが期待できる。

◆広い視野と柔軟性と専門性

  • 本プログラムの狙いは、きわめて専門性が高く、独創的な研究を行う専門家の養成も視野に入れつつ、主な狙いは視野が広く、キャリアパスの意味で広がりと柔軟性を持てるグローバルな逞しい人材の養成であると理解している。
  • 材料開発は、まさしく学際的な知識と経験が必要である。その意味で、基礎工・理・工・の先生方が親密に学生を指導されること、また、逆に大学院生の主体的な活動があるという点で、優れたプログラムであると判断する。
  • 世界の土俵で勝負するには、①一芸の道に通じる努力、②専門科目の壁を打ち破る という、一見相反する視点・能力が必要である。①に重点を置きすぎると、専門領域に特化したハイレベル人材は育つが、昨今の新技術・新製品開発に必要な、複数の技術の融合・異分野の融合に弱い面がある。一方、②に重点を置きすぎると、幅広く知ってはいるが、所詮評論家止まりの人材が育つ。上記①は通常の博士課程のプログラムの中で、そして上記②は本プログラムを通じて身につけるようにすればよい。
  • 博士後期課程修了者のキャリアパスとしては、わが国では従来、大学等のアカデミックポジションを中心に考えられてきた。しかし、諸外国の例を見れば、Ph.D取得者の多くが、企業、行政、国際公務員、政治家、マスコミ等、社会のさまざまの分野のトップ人材として活躍している。わが国の大学院課程もそのような幅広い人材養成を目指す必要がある。そのためには、特定の分野の専門知識に精通するだけでなく、統率力、説得力、国際通用力といった力も、トップリーダーとして必要になる。専門性の教育は従来の研究室中心の教育で相当程度カバーできるが、後者に関しては、組織として行うことが不可欠であり、本リーディングプログラムが積極的に担うべき役割だと考える。アカデミア以外の広い分野のリーダーとなり得る人材の養成を目指すことにより、本プログラム推進の意義は更に高まると思う。

 

◆教員の意識改革

  • 広い視野を持つ学生の教育という目標に向かって、広い分野の大学教員、企業人、他研究機関研究者、が協力して「皆で育てる」という意気込みで取り組んでいる。このことは、教育に携わる側の視野を広げることにも役立っている。指導者の視野が広くなくては、広い視野の学生を育てることはできない。
  • 次世代を担う若手研究者 (このリーディングプロジェクトの対象である学生よりも少し年上ですが)の育成に関していくつかの経験を経て改めて認識したことは、若者を育てようとすれば、彼らに将来の夢を与えてあげることが肝要であるという当たり前のことであった。 ドクターを出ても就職先がない、ポスドクをやっても行き場がない ・・・ では、やる気は起こらない。 「広い視野を持ち柔軟な思考を持つ」 若者を育てる努力に加えて、その若者たちに 「そうすればかくかくの未来が開ける」と胸を張って言ってあげられる環境を整えることが指導者の責任ではないかと思う。

◆本プログラムの吸引力とキャリアパス

今年度の採択人数は24名で、プログラムへの応募者数は39名であった。(有資格者総数は 600 から 700 名。)学習の上でも、経済的にも恵まれたプログラムであるにも拘わらず、応募者数が少ないことは残念である。この原因として、いくつかのことが考えられる。

  • 極めて優れた学生が応募した。学生の間で、応募について自己抑制的な考えが存在した可能性がある。
  • 選抜試験は3月に行われた。修士課程に入った直後の段階で、博士後期課程にまで進学を決心するのが難しいと思われる。
  • 上記のことに関連して、博士学位取得後の就職に不安があることも原因と思われる。従来、博士課程終了後の就職先としては大部分が大学や公的機関での研究職を希望するものであるが、その就職率が極めて低い。一方、博士号を持つことが、企業への就職に有利でない、という観念が行きわたっている。博士課程、あるいは博士号と企業就職については、2点のことに注意したい。
  1.   物質科学分野では、企業も沢山の博士を雇用しており、博士号が会社への就職に不利であるということはない。
  2. 一方、博士課程を終えて博士号を持つことが、単に企業への就職に「不利ではない」だけでは、若者の博士課程進学の動機にはなり得ない。企業が「博士号を持つ人を積極的に採用したい。」というメッセージが伝わらないといけないし、実際に企業の採用行動も変化する必要がある。企業も本プログラムのような変化している大学院教育の理解を深める事と同時に大学からも積極的にアピールを行い相互の理解が深まる事が必要である。本プログラムがこのような好循環を生むきっかけになることを期待する。いすれにせよ、理工系人材のキャリアパスの問題は、「学生の視野」に責任を委ねるべきことではなく、社会の共通の課題として対応しなければならない。

◆改善、または配慮すべき事項

  • 現在の企業では課題解決能力に加えて課題発見・課題創出のセンスと能力が極めて重要となっている。無論アカデミアでも大きな課題を発見して新たな切り口で分野を開拓する能力が必要な事はいうまでもない。こうした能力の開発は大変難しいが、結局学生自身の主体的な思考・行動が必要であり、それを刺激する事が教育としてできる施策になると思われる。その意味で種々のキャリヤを歩んだ研究・開発・事業者の生の話を聞く機会をもっと増やしてはどうか。
  • 本プログラムにおけるキーワードの中で、イノベーション、複眼的志向、俯瞰的視点、課題発見、企画力、目利き力、研究・事業のトレンドの創出などを重視したい。イノベーションとは、不確実・困難への挑戦であり、大きな価値の提供であり、そのためには、技術論もさることながら、情熱・夢・志・信念・勇気など、マインドのようなものが非常に重要である(先見性や目利き力もこれらから生まれる)ので、その点の教育をしっかりとお願いしたい。また、上記を達成するためには、幅広い見識が必要なので、潜在的な或いは顕在化しているニーズの把握、時代認識、用途、最先端技術(世界の技術レベルの限界)をしっかりと意識して、今の流行を追いかけるとか花形産業に関与するということではなく、自らトレンドを切り開ける人材、ホンモノの技術・革新的技術を作り上げる人材の育成をお願いしたい。
  • 課題解決力は、それなりに身につくと思われるが、一般に企画力・課題発見力を身につけることが難しい。アイデア提案・テーマ提案を数多く体験させること(そのための市場調査・ニーズ調査・技術調査も行って、提案書を作成すること)を企画してはどうか? それにより、新しい研究・事業の発想力が強化されていくと期待される。
  • 本プログラムの狙いは、世界の中で日本の競争力低下が叫ばれている状況下、それを打破するために、世界と戦う人材、日本をリードする人材を育成することと捉えている。本プログラムに参加する学生さんには、自分(達)の力で、世界と戦えるのか? 日本をリードできるのか?ということを常に自問自答しながら、成長されることを期待したい。
  • 産総研でも「イノベーションスクール」(http://unit.aist.go.jp/inn-s/ci/)という交付金を充当したポスドクの雇用と育成を行っている。その中で、企業OJTとして製造現場、研究開発現場を3ケ月経験したスクール生は、民間企業に対する理解と自らの研究展開に新たな視点が得られ、大いに成果が上がっていると聞いている。その意味で、本プログラムでの企業に加え、海外での経験は、さらに大きな成果につながると信じる。
  • 本プログラムでの成果発表は、本プログラムの特色を盛り込んだ内容にする。
  • 本プログラムの狙いを認識できておれば、学生の発表は、価値の提供や世の中での利用に焦点を当てたプレゼンであるだろうし、世界初・世界一の技術開発に関連して、現在の世界の技術レベル(背景技術・近接する先行技術)と本研究テーマの技術との差異の明確化、研究戦略を適切に述べるはずである。また、社会への貢献やビジネスとの関連性も、とってつけたようなプレゼンではなく、本当に、本人が何を実現したいのか、何を創りたいのかが明確に力強く伝わってくるプレゼンになるであろう。全員の自己研鑽、指導教員・学生間の徹底議論(研究の進め方、物事の考え方)によって、このプログラムが本当に意義あるものになっていくことを大いに期待している。
  • 田島先生がおっしゃった「他の分野の人にも分かるようなプレゼン」は非常に重要だと考える。本質を突いた分かりやすいプレゼン力は、考え方が整理できていないと難しいし、ハート(心)でプレゼンしないと伝わらない。
  • 教育の効果の計測は極めて重要。しかしきわめて困難であることも理解できる。5年後、15年後、25年後、35年後 について、なにか独自の指標を考案できないものだろうか。(これは学生への課題に対応する教員への課題ともいえる。)
  • 現在のプログラムへの応募者は種々の理由で人数が少ない。また女性や外国籍学生などのダイバーシティに欠けるように見受けられる。プログラム参加の学生間のコミュニケーションが大変活発で学生もその事を前向きに捉えているので、参加者のダイバーシティが上がり、異なる視点でものを見る人材と触れ合う良い機会になると思われる。
  • 博士後期課程への進学の決心がついていない学生に対しても本プログラムを広げ、修士課程修了時点で博士後期課程への進学を選択できるようにしてはどうか。そのようなプログラムに変更され、しかもプログラムの内容・成果が優れていれば、結果的に、博士後期課程に進学し、将来の日本を支えようという強いマインドを持った学生が増えると思われる。
  • 学生の負荷が増えすぎないようにする。学生の属する専攻と、本プログラムとで同様のことを2重に行うようなことが無いように。
  • 20年後、30年後にリーダーとなる人材の育成を目指すのであるから、20年後、30年後の世界、日本の在り様を想定し、想定されるいくつかの状況への対応を議論するような場(講義+討論会)を設けてはどうか。これまでの延長としての経済成長、継続的発展は20年後、30年後の世界では通用しない可能性が高い。
  • 学内の他のリーディングプログラムとの交流、他大学の同類のプログラムとの交流も取り入れてはどうか。
  • より広範に物質科学を把握することを目指して広範な物質・材料についての、実験データ、計算データを集積したデータベースを活用し、情報理論の手法によって「物質設計、物質開発」を目指す、あるいは問題とする現象や物性の「原因究明」を目指す、materials informatics を授業の中に取り入れることを提案する。

評価委員
青野正和 (独立行政法人物質・材料研究機構)
上田恭義 (株式会社カネカ)
潮田浩作 (新日鐵住金株式会社)
長我部信行 (株式会社日立製作所)
小間 篤 (秋田県立大学)
寺倉清之 (東京工業大学)
原田信幸 (株式会社日本触媒)
村井眞二 (奈良先端科学技術大学院大学)
八瀬清志 (産業技術総合研究所)