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第3回 固体物理セミナーを開催しました。

2015年5月28日(木) 14:40~16:10

場所:  基礎工学部 B301講義室

講師名:   鹿野田 一司 教授

講師所属:  東京大学工学系研究科物理工専攻東京大学工学系研究科物理工専攻

講演タイトル: 分子性物質を舞台とした三角格子のモット物理

 

要旨:k-(ET)2Xと呼ばれる一連の擬2次元分子性物質は、異方的な三角格子を持ち、電子間クーロン相互作用がバンド幅と同程度であることから、スピン自由度におけるフラストレーションと電荷自由度におけるモット転移の掛け算的な物理学を追及できる格好の舞台となっている。セミナーでは、まず、バンド充填が1/2の場合、電子相関が強いモット絶縁体において、三角格子が異方的な場合は反強磁性体となるのに対し等方的になると量子スピン液体になることを示す。また、前者であっても、乱れを導入することで反強磁性体がスピン液体に変わることも最近の研究で分かった。これは、Mott-Anderson絶縁体が、bosonic chargeon glassとfermionic spinonにスピン-電荷分離しているとする理論的な示唆と符合する。加圧によって起こるMott転移が量子臨界性を示すことにも触れる。次いで、三角格子モット絶縁体にホールドープされたと見なせる系を取り上げる。加圧によって電子相関を弱めることで、サイト2重占有が禁止された強相関金属からそれが許された弱相関金属へ量子相転移あるいは鋭くクロスオーバーすることを示し、これを、金属から金属への“Mott転移”という観点で議論する。強相関領域では、系がドープされたスピン液体のように振舞うことや、低温で発現する超伝導が圧力によってBEC-BCSクロスオーバーすることを示唆する結果についても紹介する。

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<主催した先生から>
セミナーでは、驚くほど多様な物性を示すこの分子性物質の先端研究を紹介されました。異方的な三角格子をもつ擬2次元分子性物質(ET)2Xを舞 台として、モット絶縁体と超伝導になる金属相への量子相転移、長らく存在が不明だったスピン液体相の発見からその周辺で起こる超伝導などの巨視的 な量子現象の精密実験の成果を紹介されました。さらに、モット相ー超伝導相の相境界を精密な圧力制御で臨界現象のuniversalityを実験 的に丹念に調べ、新しい特徴を見出されています。また、乱れを導入することで反強磁性相がスピン液体相に変わる奇異な振る舞いなど、新しい実験手 法による新奇な現象も新たに開拓されていました。これらの一連の実験は、類似構造をもつ分子性結晶物質系でマジックのように構成元素の違う物質を またぎ、または圧力や元素置換で、電子相関をオンサイトクーロンエネルギーと隣接ホッピングの比(U/t),第2隣接と第一隣接ホッピングの比 (t'/t)を精密にコントロールしながら、物理の本質を眺める研究展開をされていて、世界でも他の追随を許さない成果で圧巻でした。理論で予測 しにくい強相関物質を舞台として、理論とあう結果から、矛盾するものまであり、今後の実験的な確立、理論との整合性の確立が進展していくと思わ れ、今後の進展がとても楽しみと感じました。この機会に集中講義も行ってもらったのですが、一見複雑で取っつきにくい分子性導体の構造や電子状態 の特徴をうまく本質的な部分を取り出して、わかりやすく話してくださいました。複雑な内容もわかりやすい例えで本質を伝える講義はとても印象的 で、とても強い熱意で話されました。学生にもそれがよく伝わり、分子性物質で起こる新しい量子現象の魅力に多くの学生が惹かれたのではないかと感 じました。

(椋田 秀和 准教授)
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